高イニシャルカーボンLSDの性能をフルに生かすイニシャルトルク管理のお話


ATS開発ドライバー 木下みつひろ
高イニシャルカーボンLSDを装着された方は、すでにその威力について十分体感されていることと思います。アクセルを開けると思わずアドレナリンが噴き出しアグレッシブな走りを予感させるその源にあるのが高イニシャルトルクと高レスポンスカムの存在なのです。高イニシャルがすべてのクルマに最速タイムをもたらすとは言えませんが、少なくともメタルLSDに比べればはるかに多くのメリットと可能性を感じ取ることができると思います。また、弊社のカーボンLSDは高イニシャルでも異音を発生しませんしハンドル操作がノーマルデフ車のようにごく自然なので、タイムを気にしないストリートユーザーの皆様にもまったく不安無くお使いいただけるし本物のトラクションにきっとご満足いただけると思います。
しかし、このイニシャルトルクは残念なことに高ければ高いほど急激に低下していきます。この非常に優れた究極とも言える高性能を維持するためには、イニシャルトルクの管理が必要不可欠なのです。特に、0.1秒にこだわる方々にとっては、イニシャルトルクの管理が非常に重要となってきます。
 
イニシャルトルクは、グラフが示すようにしだいに低下します。それは、ドライバーと車のコミュニケーションや反射速度が100分の1秒単位でしだいに遅くなっていくことを意味しています。非常に短い時間の変化であるために、ドライバーがこの変化を捉えてタイムダウンの原因と認識することは非常に難しいことです。この場合、いつしか原因不明のタイムダウンが続き何をやっても改善しないということになります。このようなことにならないために、イニシャルトルクは日常的にチェックして20~30%ダウンしたら調整するという管理が理想なのです。
もちろん、新品時の20キロというイニシャルトルクがその車にベストであるとは限らないので、そのイニシャルが低下していく過程でベストイニシャルを探す必要もあります。仮に、12~14キロがベストであると感じたら、フリー走行を経て予選時にその値になるようにイニシャルトルクを調整して、例えば17キロでコースインする・・・といったメンテナンスが理想です。ということは、日常的にイニシャルトルクを測定する必要もあるということです。これには、LSDを装着したままホイールハブに取付けてイニシャルトルクを計るツールが必要です。
1 イニシャルトルクとは?
車が旋回を始めると、LSDに内蔵されているべベルギヤの働きにより内爪プレートと外爪プレートが互いに逆回転しようとします。ところが、LSDにはサラバネが内蔵されていてこれらのプレートを密着させるように圧力をかけているためプレート間には摩擦力が生じて、その結果互いに逆転しにくく、つまり旋回(=差動)しにくくなっています。LSDに差し込んだスプライン軸をねじってこの摩擦力より大きなトルクをかけると差動し始めますが、その時のトルクをイニシャルトルクと言います。イニシャルトルクはLSD単品の状態でも、車に装着している時でも発生しています。
2 イニシャルトルクの働き
イニシャルトルクは車を差動しにくくするだけでなく、速く走るための非常に重要な役割を担っています。
① イニシャルトルクが大きいほど、LSDが差動を感知してデフロックするまでの時間が短い。
② 走行条件やアクセルOFF操作による急激なデフロック解除を防いでLSDの効きを滑らかにする。
③ 走行・運転条件によるタイヤグリップや姿勢変化をLSD反応に素早く変換しドライバーに伝える。
④ アクセル操作に対するLSD反応を速くすることでドライバーの意思を素早く車に伝える。
3 イニシャルトルクは必ず低下する
重要な事は、イニシャルトルクは使っているうちにどんどん低下するものだと認識することです。イニシャルトルクが低下するスピードは、LSDの仕様や使用条件によって大きく変化します。最終的には構成部品が劣化することでイニシャルトルクが低下しますが、下記のような部品の劣化が考えられます。
クラッチプレートの面粗度、厚み、平面度の変化。サラバネ力の減少。カム、十字軸の接点の摩耗・凹み。デフケースの伸び・摩耗。など、いずれも非常に微細な変化の集積によってイニシャルトルクは低下していきます。従いまして、イニシャルトルクの低下をメカ的な対策によっては防げないとお考えください。
4 ATS高イニシャルカーボンLSDのイニシャルトルク調整の基礎知識
① イニシャルトルクの低下は新品から使い始める時が最も速く、イニシャル調整後は低下スピードが小さくなる。
② イニシャルトルクのアップは、シム増しかサラバネ厚のアップで行う。
③ シムやサラバネ厚を増すときにLSD内蔵のサラバネを完全密着させると一気にイニシャルトルクが上昇し、この場合イニシャルトルクが短期間に一気に低下するので、完全密着の寸前までで希望のイニシャルトルク値に設定する。
④ クラッチプレートは、カムリングに近いものが最も早く消耗し外側のものほど消耗が少ない
⑤ サラバネはバネ力が低下していることが多い。希望イニシャルに達しないときはサラバネを交換すること。
5 イニシャルトルク調整の手順
手順を理解したら、それに必要なツールや部品をあらかじめ準備しておく必要があります。
① 部品の配列・裏表を再現できるようにLSDを分解洗浄して部品を点検する。異常があれば新品交換する。
② 全ての部品に新しいオイルを塗りながら組み立ててイニシャルトルクを計測。(ツールが必要)
③ 再び部品の配列・表裏を再現できるようにLSDを分解する。
④ シムを外爪プレートとサラバネの間に入れて組立て、六角穴付きサラコネジM6を1.4kgmで締める。
⑤ 準備したツールでイニシャルトルクを測定する。(ツールは、バイスに固定するためのスプラインシャフト1本とトルクレンチに取り付けるスプラインシャフト1本が必要。スプラインシャフトは中古のドライブシャフトなどを利用して、それにバイスに固定するための台座やトルクレンチと連結するためのソケットを溶接して作る。
⑥ 規定トルクになるまでシムを増やすあるいはサラバネを厚くするなど、組立・分解・計測の作業を繰り返す。
⑦ シムはカムリングに対してできるだけ左右対称に入れる。
⑧ 規定トルクになったら作業終了。

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